<アデレードのことならおまかせ!>

早坂洋司
工学博士。1980年代に家族と共にオーストラリアに移住。現在オーストラリアワイン研究所でSenior Research Scientist として勤務。
趣味はワインを飲みながら藤沢周平を読むこと。2005年に生物学でイグ・ノーベル賞受賞。

スクリューキャップの舞台裏

彼女と初デート、洒落たレストランでワインを注文。給仕がボトルのレーベルを示し、彼女が小さく頷くのを確認してグラスに少しワインを注ぐ。グラスを心持ち掲げて、色合いと濁りの有無をさり気無く確認。ゆっくりとグラスを回した後、小首を傾げるようにして香りを嗅ぎ取りもう一度ワインを一瞥。ゆっくり口に含み、味・テキスチャー・喉越し・あと味を吟味する。最後に微笑を給仕に送り「彼女のグラスに」と合図。ここでダメを出すのには勇気がいる。この儀式は個人の好みに関係なく、商品として欠陥があるかを調べる為にある。それにしても小生の青春には、このような場面はなかった。安酒場の安酒では恋の花も咲かないか。

毎年英国で開かれるThe International Wine Challengeでは、世界中から1万を超えるワインが出品されブラインドで審査される。近年の例では、出品されたワインの6 7%が欠陥ありと指摘されている。その内訳は、コルク臭 、酸化、 還元、ブレット臭で全欠陥の85%を占める。コルク臭は、カビ・土・古本・湿った麻袋のような臭いで、カビ由来の物質で汚染された天然コルクが主な原因である。苦労して造ったワインも、栓の選択を誤ると台無しになる。オーストラリアでよく見られるスクリューキャップは、コルク臭・通気管理・品質管理などを考慮して導入された。栓の国際市場はテクニカルコルク(天然コルク加工品)、天然コルク、化学合成コルク、スクリューキャップの順で凌ぎを削っている。同じワインを10種類の違った栓でボトリングをすると、半年後には10種類の違ったワインが出来る。それほど栓の選択はワインの品質・特徴に大きく関与する事から、裏舞台で激しい研究開発合戦が繰り広げられている。

真夜中、異国のホテル、ジェットラグ、ワインボトルを取り出す。オープナーが無い、開栓に道具がいる不条理、悪戦苦闘、ボトルのワインに浮かぶコルク、出の悪いワインがコルク屑と共に口の中。このトラウマがスクリューキャップに導いたと考えるのは、小生だけかな。