法律相談室

なぜ合法的な遺言が必要なのか

東田予志也(Yoshiya Toden)
下関生まれ広島育ち。小学生の時、両親、兄と4人でアデレードに家族移住。
アデレードでの生活は今年で26年目になる。アデレード大学ロースクール卒業後2008年に弁護士資格を取得。現在はRICHARDS LEGALのパートナー弁護士として活躍している。
[ richardslegal.com.au/yoshiya-toden-jp/ ]

死や死後のことは誰も考えたくないものです。しかし自分が亡くなった後に、自分の遺産がどのように分配、遺贈されるかをはっきりと理解している方がどのくらいいるでしょうか。 日本では、相続については歳をとってからその時になって考えるのが一般的ですが、オーストラリアでは違います。例えば財産(不動産、動産)がある場合や、万が一の時に備えて、家族がどのように相続すれば良いのかを、あらかじめ遺言で決めておくのが一般的です。
亡くなった後に自分の意思通りに財産が分配されることを希望し、残された家族に迷惑をかけたくないと思われるなら、遺言の作成をお勧めします。

遺言とは何か
遺言(Will)とは、被相続者(Testator)が自分の相続財産の承継について意思表示をする書類です。遺言は法律で定められた方式で作成されたものでなければ、合法的な遺言と認められないことがあります。
オーストラリアは連邦制度のため、オーストラリア憲法によって連邦(Federal)と州・準州(State・Territory)、それぞれの法律が規定されています。遺言や相続についての法律は、各州・準州によって異なります。南オーストラリア州の場合は、遺言は「Wills Act 1936」で、相続手続きは「Administration and Probate Act 1919」と言う州法が存在します。
オーストラリアに資産(特に不動産)がある日本人の方は、オーストラリアで居住する州か、資産が存在する州で、その州の法律に従った遺言を作成することをお勧めします。もし日本にも財産がある場合は、準拠法と法の抵触の問題が発生する可能性がありますので、日本とオーストラリア両方で遺言を作成することをお勧めします。

遺言がなければどうなるか
遺言がある場合は法律で誰が法定相続人になるのか、またどう分配されるかが決まっています。しかし、遺言がなければ、自分の意思と全く異なる形で遺産が相続される可能性があります。例えば、元配偶者や全く往来の無い親、兄弟に全財産が相続されることも起り得ます。
また、遺言の有無で相続手続が変わってきます。遺言があれば高等裁判所 (Supreme Court)でProbate と言う検認手続きを取ります。一方、遺言が無い場合はLetters of Administration という検認手続きを取ります。後者のほうが手続き費用(弁護士費用を含む)は高くなります。オーストラリアで遺産(不動産や銀行口座)の相続手続き行う際に大事なのは、遺言検認手続きを経て発行されるGrant of Probate / Grant of Letters of Administration (検認証)なのです。 

自分で遺言や遺書の作成できないのか
オーストラリアでは、郵便局やニュースエイジェンシーなどで、自分で作成する遺言フォームDIY Will Kit を$20.00-$30.00購入できます。フォーム自体は問題ないとしても、自分で記入した内容について間違いがあったり、署名や証人で問題が起こることがしばしばあります。遺言に欠陥が存在すると、それを修正するためには何千ドルから何万ドルの費用がかかります。最悪の場合、合法的な遺言と認められないケースも出てきます。自分で自筆で遺書を残しても、法律で定められた方式で無い場合は、何千ドルから何万ドルの経費を費やして、高等裁判所で手続きを取らなければなりません。

Public Trustee やExecutor Companyであれば、遺言は無料で作成してくれると聞いたことがある
Public Trustee やExecutor Companyは、無料で遺言を作成してくれますが、遺言の中で依頼人に自分たちを相続執行人・管理人として任命させます。それは、彼らが執行・管理サービスの報酬として遺産の何パーセントかを取ることを意味します。結果的に、弁護士の遺言作成費用や相続手続き費用よりはるかに高くなり、遺産額が減ることになります。

相続について誰に相談したらいいのか 南オーストラリア州で遺言作成を考えている方や相続問題を抱えている方、また遺言に関してご不明な点のある方はお気軽に私までお問い合わせください。